イギリスパターンを有効に生かすために2010/05/05 12:40

オリンピックやワールドスキーで活躍しているのはアメリカ、カナダの北米勢、スイス、フランス、オーストリアそれにこの時とばかり活躍する小国リヒテンシュタイン、さらに伝統的にノルディック種目に強い北欧や東欧。 これに対してイギリスの選手が活躍したというニュースはほとんど聞いたことがない。 北米はロッキー山脈、ヨーロッパ勢はアルプス、東欧や北欧は一年の約半分が雪に覆われるという環境があるのに対し、イギリスは国内に高い山が無いからではないかと思う。

日本の緯度でいえばカラフト付近に位置するイギリスであるが、四方を海に囲まれていることと、暖流の影響で冬場はそれほど気温が下がらない。 そのかわり冷たい空気と暖かい海水が出会った時霧を発生する。 霧のロンドンといわれるのはこのためなのである。

霧は雨と違い衣服のすき間から体の中に入り込み急速に体温を奪って行く。 毎年多くの人が霧で命を落としている。 この環境がバーブァのジャケットやオイルドセータを生み出した原因である。 当然フライフィッシングもこの環境を無視して考えることはできない。

羊がのんびりと草をはむ牧場の中を流れる一本の川。 高低差の少ない中を流れる川は鏡の様に静かで所々に木が生えている以外、隠れるものは何もない。 魚に気付かれないよう自分の影を川に写さないでロッドを操り、水面をたたかないようそっとラインを着水させるためのタックルの改良とキャスティングテクニックが必要となったに違いない。 この結果ダブルテーパー(DT)のフライラインが産み出され、正確にポイントに振り込むアクションのロッドが作られたことは自然のなり行きであった。

周囲に木も山もなにも無い開けた場所でフライフィッシングをすれば分かることだが、誠に毛鈎が見えにくい場所である。 毛鈎がどこにあるかを見つけやすくカーフテールやダッククイルのウィングを付けたりリーダーに目印をつけること等。

流れのある川ならこれでもいい。 しかし穏やかな流れの川ではこのような物を付けてしまうと魚に警戒されるだけである。 まして周囲の環境の中に溶け込むように巻き上げられたフライパターンでは、まるで逆効果になってしまうのである。

そこをキャスティングの技術で補うことになる。 もしラインの先に結び付けた毛鈎を目で十分に追うことが出来るスピードでキャスティング出来れば、プレゼンテーションされた位置は確実にわかる。 イギリスのキャスティングは常にこの発想を根底において考えなければ理解出来ない。 アメリカの、それもロッキー山脈の西側を流れる川の釣り方とは対照的とも思えるくらいの違いがある。 この違いが毛鈎のスタイル、ラインの形状そして当然ロッドのアクションの違いになって現われてくる。 では、こんなフライキャスティングテクニックが日本で役に立つのだろうか。 次の事柄は一つの答になるかもしれない。

山形県と秋田県の境にある鳥海山。 急な山肌を流れる川、月光川は、決してスコットランドののどかに羊が遊ぶ牧場を流れる川には程遠い。 雪解けの頃には川幅一杯に濁流が流れ山の土砂を一緒に押し流す暴れ川である。 このため各所にエンテイが作られた。 橋の上から上流を眺めると、ちょうど階段のように下から上へと続いている。 雪代が川幅一杯に流れるので、河原は広く釣り人が隠れる場所はない。 エンテイの間隔が短い場所は雪代が治まってしまうと流れがほとんどなくなり、鏡のような水面になってしまう。 日本海に沈む夕日は、上流に向かって釣り人の長い影を落とし魚を警戒させるので、まことに釣りにくい場所である。 この川に毎日通って27cmから32cmのヤマメを1週間で8匹釣ったフライマンがいた。 4年前の話である。 以下はダイジェストした彼の話。

「梅雨が明けた頃、仕事が終わってから釣り場へ通った。 自宅から15分。 その日によって時間は一定していないがとにかく夕方。 梅雨の雨はすっかり治まり暴れ川の面影もない。 ウェーダをはいて川に立ち込むと魚に警戒されるのでスニーカーで川に通った。 ロッドは8フィート半。 ラインはDT6F。 ウエイトフォワードラインの様にダブルフォールでスピードを付けなくても20ヤード以上楽にラインが出て行く。 DTの特長で距離が伸びると共にループは大きくなる。 しかもDTの強味で最後の最後までラインをコントロールすることが出来る。

伸び切ったリーダーの先に結び付けた毛鈎はイギリスパターンのドライフライで当然アップアイ。 若干重めのフックに巻かれた毛鈎はウイングもマーカーも付いていない。

ヤマメがフライにライズする。 ここで間髪を入れずにあわせなければならないはずであるが、一呼吸置く。 20ヤード以上ラインが出ているのだからいくら早あわせしても無駄である。 水面に不自然な動きを与え魚に警戒心を与えるだけになってしまう。 一呼吸置くことでヤマメが反転した瞬間ラインの重みでフッキングする。 フライマンはそのタイミングを見計らってロッドを持っている手を高く上げるだけでいい。 この釣り方は4番や5番のラインでは重さが不足する。 6番のラインを使っていても距離が短かければ無理だし、リーダーが完全に伸び切るプレゼンテーションが出来なければやはり不可能である。 ラインが出ているだけでリーダは伸び切っていない、水面はたたくという名ばかりのロングキャストでは絶対まねの出来ない、正確なキャスティング・テクニックを要求される釣り方である。 毛鈎は着水した時ヨットの底に着いている大きなオモリが正しい姿勢を保つのと同じ理由で重さのある太いフック。 しかも反転した時にフッキングさせる必要から微妙なひねりの入ったアップアイが必要である。 さらにくわえた瞬間、魚に異物感を極力感じさせないよう、弾力があってしかも柔らかいハックルを寝かせて巻く。 もし硬かったり、あるいは立てて巻いたハックルでは、魚が反転する間に吐き出してしまう。」

以上が本人の話である。 この釣り方がこの時期この川のベストの方法であるかどうかはわからない。 しかし彼が持参してきた8匹の冷凍になったヤマメを前にして反論する言葉は何もなかった。


・アドバイス

DTラインを使いこなすにはDTライン用に作られたロッドを使わなければなりません。 ウエイトフォワード(WF)ライン用に作られたロッドにDTラインを装着した場合15ヤ-ドを越したあたりからロッドの腰が抜けた様な感じにになります。 これはロッドが悪いのではなくてこれ以上の距離はダブルフォールを掛けてWFラインをキャストするようにロッドもラインも設計されているからです。 WFにはWFラインの特徴と良さがあります。 DTラインも同じです。 それぞれのラインの特徴を活かした釣りをしてこそフライフィッシングが楽しくなると思います。 WFで設計されたロッドをDTラインで振ったりDTライン用に作られたロッドにWFラインを装着してダブルフォ-ルがうまく掛けられないと嘆いている人があまりに多いのも確かです。

一度ラインとロッドのマッチングを確かめて見てはいかがでしょうか。

(自然倶楽部1990年4月号 62-63P)

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