英国やぶにらみ第4話 アー ユー オーライ? ― 2010/04/21 22:25

早飯となんとかを良しとする日本人や、ファーストフードをいやがらない米国人から見ると、英国にかぎった訳ではないが、欧州の人々は食事に時間をかけると思う。 ロンドンなどの大都会では、ハンバーガーやスパゲッティレストランが増えつつあるが、これらの客の大部分は、アメリカや日本からの観光客が利用しているわけで、混雑しているからといって英国人に是認されているのではない。 サンドイッチの生れた国なのにいまだにこの食物の評価がいまいちなのである。

最近では訪英回数もふえたので当然ながら友人、知人も増え、彼らとの会食する機会も増えた。 だが、相当の親しみの間係であっても、英国では自宅に招特しての会食は少ない。 ホテルやレストランでの会食がその大半をしめる。 フランスのタイヤ会社の発行するレストランガイドのたぐいは英国でも数種発行されており、客を接待する際などおおいに役立っている。

招特する側ではまず、テーブルの予約からスタートして準備にはいる。 時間が来て同行し、ドアを開けるとまずはバーに直行するのが順序だ。 適当に飲み物を決め注文し、まずは一献するやいなや「アーユーオーライ?」と聞かれる。 つまりその水割りの味についての良し悪しで、つまらん事を聞くわいと思う。 軽く1杯の後にテーブルヘと案内されるが、ロンドンなどの都会は別として、田舎のレストランなどでは、割り当てられるテーブルの位置で招待者がその町でどの程度の階級であるかをほぼ知ることが出来て面白い。 美しい前庭が望める窓に面した席とか、マントルピースの対面位置などのテーブルであれば、招待者はその町では上級であると信じてもよい。 また、その店をひいきにしており、既に多回数のチップを納めている証拠というものだ。 逆に入口近くや暖炉のそばのテーブルに案内された場合は、残念ながらその店や町で不人気な人と判断してあまり間違いない。 暖炉の前でオニオンスープの熱いのを汗をふきふき流し込むのは、どんなに美味でも御馳走ではないではないか。

テーブルに座ると、どでかいメニュー本文と本日の料理長のおすすめメニューが英語の教科書のごとく目の前におかれる。 上客のところには店のウェイター頭かマダムが脇に立ってお天気のあいさつに始まって、おすすめメニューの説明が延々とつづく。 短期滞在者の小生にとってはメニューを解読するだけでも重労働なのに、脇でペチャクチャやられたのでは、さっぱり選定作業がはかどらない。 なんとかスターターにはじまって、アントレ(メインディシュ)を決めて注文すると、そこでまた「アーユーオーライ?」とくる。 注文を聞き了わったんだからさっさと引っ込めばいいのに、マダムのお喋りはどこの誰がサーモンのでかいのを釣ったなどと御機嫌をとりむすぶのに忙しく、こちらは只々呆然で庭の木でも眺めるしか手がない。

メニュー選定を了えてホッとする間もなく、次にワインの指定がある。 普段、ワイン付横メシなど無縁なので、どこの何というワインが良いのか皆目判らない。 蛇足ながら、英国人は世界一きき酒の名人といわれているので、英国人と会食の時は彼らに一任するのが無難である。 適当に頼んでオーダーとなるが、またもや、「アーユーオーライ?」と来た。 いいも悪いもわからねェんだよ俺は。

頼んだスターターの小海老のカクテルをひと口食べたとみるや、かんぱつをいれずに「アーユーオーライ?」が飛んできた。 おいしいと答えると自分が料理したみたいな笑みを浮かべて、ラブリーなどとのたまう。 こちらも同様にまずそうなスープの加減を聞くと、ベリーグッド、ただし塩がおおすぎるときた。 冗談じゃない、塩辛いスープなんて飲めたもんじやないのに。

前菜の皿かたしにきたマダムの会話がひとしきりあって、やっとアントレのステーキが届く。 上等のスコッチビーフだそうで楽しみである。 LPレコードぐらいある皿にステーキが鎮座し、野菜をその上にところせましと盛り上げる。 そんなにじゃがいも食えないからと遠慮すれば又々「アーユーオーライ?」である。 やっと盛り付けが終って食べ始めると再び「アーユーオーライ?」ときた。 都バスの運転手の車庫入れじゃあるまいし、オーライの連続でいささか返事が面倒になってきたので、正直に味、焼き加減などを言ったら、聞いた方がけげんな顔をした。

食事の最初から最後まで、それこそペリエ水にまで「アーユーオーライ?」が付いてくるのが英国式の接待であることに気付くのには時間がかかる。

いつぞや、皿かたしにきたウェーター頭が同じ質問をしてきたので、美味であったがノコギリがあれば最高だ、といったら、二度と我々のテーブルには姿を見せなかった。 聞く方も儀礼だけで、答える側も儀礼に乗っとり、まずくても美味「デリシャス」と応じてこそ伝統的な英国式食事とみたが、いかがなものか。(荒井利治)

Copyright (c) T.Arai, 1986. All rights reserved.

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://tightlines.asablo.jp/blog/2010/04/21/5034367/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。