英国やぶにらみ第32話 アカ 赤 あか2010/04/22 23:17

昔、日本のザレ歌に「郵便ポストの赤いのも、お猿の尻が赤いのも…」などと云った文句があったが、ロンドンにきてふと思い出した。 なにしろ、街中に赤の色彩が多用されているからだ。 まず、ユニオンジャックのあか、ごぞんじのとおりイングランドの十文字のアカ、北アイルランドのXラインあか、そしてスコットランドの青地に自抜きXラィン組合わせで出来ているのであるが赤色の面積が多い。 官公庁をはじめとしてオミヤゲ屋までがこの旗を掲げており、やたらアカ色好き国民である。 公衆電話ボックスも、一部の国際電話ボックスを除いて全部が赤。 日本の郵政省が明治以来真似ている郵便ポストは両国ともアカ色が基準である。

ロンドンをはじめとして、主要英国都市の交通機関のバスは、そのほとんどが赤色に塗装されている。 郊外行きのものはグリーンなどがあるが、町中を走るものは広告を抱いた赤バスである。 地下鉄のシンボマークもアカで出来ていて、何処が地下鉄の入口なのか、遠くからも判別出来る。

緑の国とも呼ばれる英国は、春から秋にいたる期間、国中がみどりに染まる。 公園の樹木はむせかえる程のみどりを作りだす。 郊外の丘陵地帯は、グラスの絨毯を敷詰めた様に輝く。 そんな風景の中に現れるアカ色の美しさの認識度合は、他の色にくらべると格段上で、英国のデザイナーやプランナーの赤色採用の尺度を知らされる。

赤色の効用は、長い冬の期間についても明瞭度に変りなく、明確に判別出来る。 日照時間が極度にかわり、どんよりとした日中が終日支配する。 建造物なども古色蒼然としている中を、唯一ブライトレッドのバスがアクセントをつける。

衛兵交代で有名なバッキンガム宮殿やセント・ジェームス宮殿などの衛兵たちも10月の声を聞くと、春までグレイのオーバーコートと熊の毛の帽子の制服にかわりアカくなる。 夕暮れなどは、なんとなくドブネズミ色で生気にかける。 冬が近づくと狩猟のシーズンで、郊外で多くの狩りに出会う。

この乗馬服がブライトレッドが多く、周辺や自然のカラーとそぐわないし、獲物に警戒を与えてしまうのではないかと心配するのは間違いで、もともとキツネ狩りなどは猟大などに追跡させ、本人は後方から追うので、ア力色のジャケットは猟犬に主人の位置を知らせる認織色としての度合が強く、また、他の狩人に獲物と間違えて誤射されないよう保護する為のものである。

かつて世界の七つの海を制覇した大英帝国は、多くの退役軍人を生んだ。 当時第二次世界大戦の従軍兵士であった人々も、今は年金で暮すのが大半。 しかし、老人パワーは中々のもので、昔の活躍ぶりを今も誇っているかのごとく、機会をみてはパレードなどに参加してくる。

これが又、真っ赤の上着に勲章を胸一杯にさげ、退役時の階級腕章、襟章などを並べ立てる。 遠くから見ていても目立つアカだから、その人数にびっくりしてパレードに近づいてみると、なかには入れ歯のないフガフガじいさんや、赤い制服も実はシミだらけであったりして、アカは遠くから見るに限るなぁと感じたりもする。

反対にセント・ジェームス公園やリージェント公園での軍楽隊のコンサートには必ず最前列に退役軍人の姿がみられ、写真愛好家の為に、緑の中でひときわすばらしい被写体の役目をはたしてくれる貴重な存在でもあるのだが。

本来、警戒の色として赤は多方面で使われてきており、また、情熱をあらわす色彩として評価されているが、英国人ほど一般に上手にこなしている国民は少ないのではあるまいか。

我が国の国旗は赤と白で構成されており、紅白の引き幕などは、このカラーコーディネートを採用している感じを持つが、英国でも同じようにデザインの基礎に赤とスコットランドブルーを念頭におく。 だがイングランドの優勢作用のせいか、やたらアカの色彩が目立つようだ。

英国の中でスコットランドは北に位置すろ。神の水とも呼ばれる清水や湧き水と、自然の冷気と湿度が世界に知られるウィスキーを生み出しているのは有名で、あとはタータンチェックや、ハリスツイード、カシミヤセーターなどがあげられる。 カシミヤセーターなどは本来、アジアのカシミール高原の羊毛で、英国産ではない。 現に、中国の国華商業公司なども中国産のカシミヤセーターを、香港などで販売しているが、染色がまるで下手で、毛質のツヤまでなくしてしまっている。

その点、赤色にかけては何10種と染め分けられるスコットランドの技術は、タータンを始めとして、カシミヤの染色を見事なまでに仕上げる。 ウィスキーを作りだす神水が、湯のしにはじまり、脱脂作業、染色、すすぎの全工程に微妙な役目を果たす。

現実に世界の服飾界において、カシミヤの赤色について最高の色合いを出せるのは、スコットランドだけといわれる。 英国の有名なアカ嫌いは、首相のサッチャーさんで、国鉄赤字、予算赤字、へリコプター会社の赤字が原因の閣僚とのトラブルなど、おそらく女王陸下のアカいバラも、しゃくの種やもしれぬ。(荒井利治)

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