フライフィッシング内緒話 第8回 コンピュータの記録から ― 2010/04/24 08:03
1976年からフライ・フィッシングに行った時の記録を取っていてその記録を、コンピュータにインプットして、データ・ベースを作ったことは、前回書いたが、今回はその中から、思い出に残っていることを公開しよう。
人間の記憶と言うのは実にあいまいなもので、記録を付けた直後は鮮明でも数週間かするとかなり薄らいて来る。 まして数年もたつと、すっかり忘れていて、記録を見てやっと思い出す有様で、たとえ記憶に残っていても、意外に不確かなものが多い。 ところが、時として強烈に記憶に残り、忘れることが出来ない思い出と言うのもある。
釣りの場合は二つに分けられる様だ。 一つは、生まれて初めて魚を釣った時。 これは、その後同じことを繰り返して行く内に感激が薄くなり、不確かなものとなる。
そんな状態の所に、今まで経験したことの無いことが起きると、たちまち、強烈なカルチャーショックを伴って、頭の中に焼付られることとなる。 これが二つ目。
よく、釣り人がしゃべるときは、両手を縛ってしゃべらせろ、と言うがこれは時と共に釣った魚が大きくなるからで、日本で魚拓が発達したのはここらが原因かもしれない。
それはさておき、一度強烈な経験をすると、もう一度簡単に出会えるのではないか、と思ってしまったり、あるいは逆に体験したことを誇張して記憶してしまうのが人間である。 そのためとんでもない思い違いをしたり、幻を追い掛けたりする場合がある。
こんな時、コンピュータは非情である。 記録を探して見ると、毎年起こっているが、例の少ないことを、初めて体験したものだから、オーバーに言い立てていることなどは、たちどころに判明してしまう。 それでも、10年も記録を取り続けてせっかくのチャンスを、みすみす見逃していたり、ここ2,3年の内では、かなり珍しいこと、などが分る。
よく日本では、スーパー・ハッチは無いなどと、平気で言い出したり、本に書いたりしている人がいるが、それはとんてもないことである。
まちがいなく、ここ東北地方でも起きている。 だだ、確実に言えることは、ほとんどの人が見るチャンスに巡り会えないだろう、ということである。 小さいハッチなら、時期になれば毎日どこかで、夕方に始まるので、この頃イブニング・ライズを狙いに行った人なら誰でも出会えるが、スーパー・ハッチは一つの場所では年に1回、それも僅か15分程の出来事では、目撃するのは難しいことといえる。
この千載一遇ともいえるスーパー・ハッチを、フライ・フィッシングをやり始めた11年程前、目撃した事がある。
5月の末のある日、イプニング・ライズを狙うべくポイントに入っていた。 前々日まで、あれ程釣れた魚が、この日はまるで釣れず、いくらフライを変えてもポイントを移ってもライズが無かった。 そして、日が暮れかかった頃、一斉にあちこちの水面から、カゲロウがハッチを始めた。 あっ、と思う間もなく、あたり一面、雪が舞う様にカゲロウに取り囲まれ、やがて集団のまま移動して行った。 その間僅か15分位の出来事だった。 たったこれだけのことだが、毎年この頃を境に、何かが変った様だと、5年程たってから気がついた。
その後、毎年この時期に報告されて来るデータから、かなり大きな変化があることが、記録を調ベて行く内に、浮かび上がって来た。
一つは、それまで釣れていたのが渕か、あるいは流れのゆるやかな瀬だったのが、かなり急な、瀬のポイントでもライズをするようになった。
二つ目はこの日を境に、釣れるフライ・パターンが、すいぶん変ってしまっていた。
このスーパーハッチを目撃した時は、まだまだ経験不足で、あまり感激はなかったのだが、後で又とないチャンスだったと知ってから、もっと詳しく観察しておくべきだったと後悔している。
正確な発生日を予想出来ないのでその後、再びスーパー・ハッチに出会う機会に、残念ながら恵まれていない。 ただ毎年この時期を境にして釣れる状況が大きく変わるので、今では逆にフライ・パターンが変わったことと、魚が瀬に出ることでスーパー・ハッチがあったことを推測している。
又、このことが原因で、毎年多くの人の協力を頂いて、正確な記録を残していこうと、思い立った。 今後データが蓄積されるにつれて、アメリカのカンパラ・ハッチの様に予報を出せるかもしれない。
この時期に釣り場に入った人は、僅か数日の差で、釣り場の印象を大きく変えてしまう。 ある人は、あそこのポイントは「物凄く魚が濃い」と言うし、別の人は同じポイントを「全然釣れない」と言いだす。 大釣りを体験した人は、翌年同じ場所にやって来て、スーパー・ハッチが終った直後の、まるで釣れないポイントに入って「去年までは釣れたのだが、ここも魚がへった」とぼやきだす。 はたで、事情を知っていて、だまって見ていると誠に面白いのだが今後誰かが、スーパー・ハッチに出合うチャンスがあった時のために、今回公開することにした。
このスーパー・ハッチが下流では毎年秋に起こる。 毎回のことではないが、カゲロウの屍骸が国道4号線に掛かっている橋の上に降り積りスリップ事故の原因になるので、道路管理事務所から掃除に出た、という新間記事が、過去10年の間、私の記録では2度あった。(三浦剛資)
(「北の釣り」1985年10/11月号 No.41 P43-44掲載)
Copyright (c) 三浦剛資, 1985. All rights reserved.
人間の記憶と言うのは実にあいまいなもので、記録を付けた直後は鮮明でも数週間かするとかなり薄らいて来る。 まして数年もたつと、すっかり忘れていて、記録を見てやっと思い出す有様で、たとえ記憶に残っていても、意外に不確かなものが多い。 ところが、時として強烈に記憶に残り、忘れることが出来ない思い出と言うのもある。
釣りの場合は二つに分けられる様だ。 一つは、生まれて初めて魚を釣った時。 これは、その後同じことを繰り返して行く内に感激が薄くなり、不確かなものとなる。
そんな状態の所に、今まで経験したことの無いことが起きると、たちまち、強烈なカルチャーショックを伴って、頭の中に焼付られることとなる。 これが二つ目。
よく、釣り人がしゃべるときは、両手を縛ってしゃべらせろ、と言うがこれは時と共に釣った魚が大きくなるからで、日本で魚拓が発達したのはここらが原因かもしれない。
それはさておき、一度強烈な経験をすると、もう一度簡単に出会えるのではないか、と思ってしまったり、あるいは逆に体験したことを誇張して記憶してしまうのが人間である。 そのためとんでもない思い違いをしたり、幻を追い掛けたりする場合がある。
こんな時、コンピュータは非情である。 記録を探して見ると、毎年起こっているが、例の少ないことを、初めて体験したものだから、オーバーに言い立てていることなどは、たちどころに判明してしまう。 それでも、10年も記録を取り続けてせっかくのチャンスを、みすみす見逃していたり、ここ2,3年の内では、かなり珍しいこと、などが分る。
よく日本では、スーパー・ハッチは無いなどと、平気で言い出したり、本に書いたりしている人がいるが、それはとんてもないことである。
まちがいなく、ここ東北地方でも起きている。 だだ、確実に言えることは、ほとんどの人が見るチャンスに巡り会えないだろう、ということである。 小さいハッチなら、時期になれば毎日どこかで、夕方に始まるので、この頃イブニング・ライズを狙いに行った人なら誰でも出会えるが、スーパー・ハッチは一つの場所では年に1回、それも僅か15分程の出来事では、目撃するのは難しいことといえる。
この千載一遇ともいえるスーパー・ハッチを、フライ・フィッシングをやり始めた11年程前、目撃した事がある。
5月の末のある日、イプニング・ライズを狙うべくポイントに入っていた。 前々日まで、あれ程釣れた魚が、この日はまるで釣れず、いくらフライを変えてもポイントを移ってもライズが無かった。 そして、日が暮れかかった頃、一斉にあちこちの水面から、カゲロウがハッチを始めた。 あっ、と思う間もなく、あたり一面、雪が舞う様にカゲロウに取り囲まれ、やがて集団のまま移動して行った。 その間僅か15分位の出来事だった。 たったこれだけのことだが、毎年この頃を境に、何かが変った様だと、5年程たってから気がついた。
その後、毎年この時期に報告されて来るデータから、かなり大きな変化があることが、記録を調ベて行く内に、浮かび上がって来た。
一つは、それまで釣れていたのが渕か、あるいは流れのゆるやかな瀬だったのが、かなり急な、瀬のポイントでもライズをするようになった。
二つ目はこの日を境に、釣れるフライ・パターンが、すいぶん変ってしまっていた。
このスーパーハッチを目撃した時は、まだまだ経験不足で、あまり感激はなかったのだが、後で又とないチャンスだったと知ってから、もっと詳しく観察しておくべきだったと後悔している。
正確な発生日を予想出来ないのでその後、再びスーパー・ハッチに出会う機会に、残念ながら恵まれていない。 ただ毎年この時期を境にして釣れる状況が大きく変わるので、今では逆にフライ・パターンが変わったことと、魚が瀬に出ることでスーパー・ハッチがあったことを推測している。
又、このことが原因で、毎年多くの人の協力を頂いて、正確な記録を残していこうと、思い立った。 今後データが蓄積されるにつれて、アメリカのカンパラ・ハッチの様に予報を出せるかもしれない。
この時期に釣り場に入った人は、僅か数日の差で、釣り場の印象を大きく変えてしまう。 ある人は、あそこのポイントは「物凄く魚が濃い」と言うし、別の人は同じポイントを「全然釣れない」と言いだす。 大釣りを体験した人は、翌年同じ場所にやって来て、スーパー・ハッチが終った直後の、まるで釣れないポイントに入って「去年までは釣れたのだが、ここも魚がへった」とぼやきだす。 はたで、事情を知っていて、だまって見ていると誠に面白いのだが今後誰かが、スーパー・ハッチに出合うチャンスがあった時のために、今回公開することにした。
このスーパー・ハッチが下流では毎年秋に起こる。 毎回のことではないが、カゲロウの屍骸が国道4号線に掛かっている橋の上に降り積りスリップ事故の原因になるので、道路管理事務所から掃除に出た、という新間記事が、過去10年の間、私の記録では2度あった。(三浦剛資)
(「北の釣り」1985年10/11月号 No.41 P43-44掲載)
Copyright (c) 三浦剛資, 1985. All rights reserved.
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