フライフィッシング内緒話 番外編 ― 2010/04/24 08:33

好評、不評は別にして、これまで連載させて戴いた内緒話も今月号でおしまいというわけで、ページを汚すのも今回限りと相成った。

そこで、こちらの舌足らずならぬ筆たらす(正確にはワープロでこの原稿を打っているからキー足らず)で話が見えない部分が多々あったので、これ幸いと最後の1回を利用して補足させて戴くことにした。 雪ウサギやネコ柳が姿を見せるまでまだまだ間のあるこの時期、こたつに入りながら「北の釣り」を10倍楽しむまではいかなくともバック・ナンバーをめくりながら、2倍楽しんでいただければ幸いである。


・「途中経過を……」(8月号)

コンピュータにインプットしてあるデータの中には、釣りのデータ以外にも色々なことが、記録として残っている。 毎年決って顔を出すのは川で転んだ記録である。

雪代の頃は夏と違いヒザ程度の深さでも足元をすくわれて「アッ」と言う間に流されるし、イブニング・ライズを狙いに入った帰りに夕立に出合って暗くなってから帰って来た、などという経験者は多い。

仙台から、そう遠くない川なのだがポイントの入口と出口が切り立った崖になっていて、雪代が完全に治まってからでないと、どうしても入れない場所がある。 その間約1km程なのだが、中に入ってしまえば回りが開けた瀬になっていて、フライを振り易いので、水が引くのを、今か今かと皆待ち続ける。

やがて入れる季節になっても、まだ難所が残っている。 入口の両岸で平常水位の部分が、大きくえぐられている。 ちょうど、駅のプラットホームを狭くした様な感じである。 しかも傾斜がついているから、なれた人は水際を歩いた方が滑らないのを知っているが、初めての人はどうしても崖よりを歩いてしまう。

先に立って歩いていた時、後の方で「ボチャン」と音がした。 振り返ると同行者の姿は見えず、フライ・ロッドの先だけが水面から見えかくれしている。 やや暫くして頭が覗き無事浮いて来た。 足場が悪いので10m程下流まで泳がせから岸へ引き上げた。 ボックスに入っていた毛鈎は遥か下流まで流されたが、またローンの払い終ってない竿は、しっかりと手に握られていた。


・「幸福の青い卵……」(9月号)

この記事が出た後で、「青い卵なんて気味が悪い」と数名の方からいわれたが、話をよく聞くと黄身が青くなるものと勘違いしていた。 色が付くのは卵の殻、つまり外観であって、黄身ではない又、色が付くといっても、いかにも「青」とはならない。 淡い青、或いは水色といった方がより正確かもしれない。 大きさは元々卵を目的とした鳥ではないから普段店頭で見掛ける卵よりは小ぶりである。 出来上がるハックルの色は、卵がブルーだからブルーダンとは限らない。


・「東北を訪れた……」(11月号)

東北を訪れたフライマンは、レオン・チャンドラーだけでは無い。 1981年にはジム・ハーディとイアン・ブラグバンが訪れているし、翌1982年にはチャールズ皇太子にフライ・フィッシングを教えたジョニー・ローガンが来ている。

これ以外にも、チャンドラーより遥か以前に、ヤンフォー・サンダーが東北を訪れている。 しかし彼の場合、フライ・キャスティングは付け足しで、どちらかといえばマルチ・タイプ(両軸)リールのキャスティング・テクニックを見せるのが主だった。 そういう意味で釣り場を前にしてフライ・フィッシングを見せてくれたのはレオン・チャンドラーが初めてだったし、彼の話のアチコチにキャスティング・テクニック以外のポリシーを感じさせてくれた。


・「コンピュータの……」(11月号)

11月号が発売された4日後にNHK特集「カゲロウ大発生」が放送になった。 先に「北の釣り」を読んでから、テレビを見た人は「アレッ」と思ったに違いない。

放送の中で、カゲロウの大発生が報告されているのは、全国で9河川、阿武隈川が一番北になるといっていたが、毎年ではないにせよ、もっと北にある仙合の名取川と広瀬川でも大発生は起きている。 11月号の記事にある国道4号線の橋というのは仙台を流れる名取川の橋であるし、記事が載った新聞は仙台の「河北新報」である。

阿武隈川の福島付近では10年前から毎年9月に定期的にあったらしい。 福島を含め他の地域で毎年起きている大発生は全て「アミメカゲロウ」に依るものであるが、私が遭遇した12年前の春のハッチは、時期や場所から考えても同じカゲロウとは思えないし、福島の大発生に比べれば、遥かに小さいものだった。 それでも、この季節に起きるハッチとしては、ずいぶんと大きなハッチであったと、記憶している。 外国で、フライ・マンが対象としているスーパー・ハッチがどれ程の規模なのか不明であるが福島のハッチはスーパー・ハッチではなく異常発生ではなかろうかと感じた。

放送では、他の8河川から大発生について報告はあったが、学術的なレポートがあったのは僅かに3件しかなかったことや、全てのレポートに共通して、発生したカゲロウは雌しかいなかったこと等を紹介し、しかしながら福島で大発生したカゲロウには、調査の結果雄が半分入っていた事実を指摘していた。

ところで、今出ている水生昆虫学の本は不明な部分が実に多い。 同じ川の上流と、数百m下流で採取したカゲロウが、どう見ても同じ種類なのに、色の違いがあったりするが、この件についての記述は見つけられなかった。

非常に独善的な見方だが、どうも金にならない学問は、不明な部分が多い様である。 事実、水生昆虫学は高等学校の生物部の研究対象にはなっても、熱心な生徒が卒業したり、担当の教師が転任したりすると立消えになってしまう。 これではせっかく貴重な発見があっても世に出ることなく埋れてしまう。 たまにレポートが提出されても、一時的なものだったり卒論程度のものだったりする。 20年とか30年とかの長期にわたって観察を続けているのは、趣味でコツコツと調べ上げている人の方が多い様である。

珍しい鳥を発見するのは一般人の方が多いし、すい星を発見するのもアマチュアの天文家が多い。 勿論「XX野鳥の会」や「○○星の会」、の指導による所が大きいのだろうが、意識して毎日見ている場所に多少とも変化があれば気付くのは当然である。 只、それをどこに、どのように報告すれば良いのかが、わからないのでせっかくの発見が忘れ去られてしまうことになる。 その昔、クチジロ論争というのがあってこれに決着(=イシガキダイ)を着けたのも、カンダイの頭にコブがあるのを指摘したのも、現場で生きた魚を見ている釣り人だから出来たのだ。

「北の釣り」9月号の奇形ヤマメなどは誠に良い例で、この記事の後ずいぶん「北の釣り」に追加報告があった様である。 私の所にも同様な報告があった。 釣れたのは、1985年6月2日、場所は釜房ダム上流である。 時間は夕方、毛鈎はドライフライ。 現物は剥製にして保存してある。 釣った本人がアチコチ持ちまわって調べた所によると発眼卵にキズがついていたり、卵がかえる時の温度が高かったりすると出やすいとのことだった。 例は少ないものの、取立てて珍しい事ではないらしく、ましてや水が汚染されたことが原因による奇形ではなかった。

そこで我々釣り人の出番である。 一人ひとりのデータは小さくとも、数は圧倒的に多いのだから、それこそ「北の釣り」あたりで10年か20年程度まとめて、しかるべき研究機関に持ちこめば、追跡調査の後に水生昆虫学の本の1,2行位には影響を与えることが出来ると思うのだが。

大事なことは、先入観念を持たずに現場で自分の目で見た事実を、観察し続けることである。 本を読んだだけで、人一倍知っている様なツラをしている者には、耳が痛い話だろうが、時として本の知識が新しい発見を遅らす場合がある。 福島の大発生は誠に良い例で、もし過去3件のレポートに惑わされていたら、多分将来の水生昆虫学の本に次の様に載ってしまっただろう。

「アミメカゲロウ=中流部に生息し……秋に単性生殖し、時として大発生する」と。

過去のレポートにとらわれず地道に川を調べた結果、雄、雌、両性が生息していたのを発見したのはNHKのお手柄である。 だからといって過去にレポートが出された川もそうであるとは断定出来ない。 今後、少なくとも10年程の追跡調査が必要だろう。 協力する余地は、大いにあるのだ。

ということで私が春のスーパー・ハッチに出会った場所を内緒にしていては、内緒話がいつまでも終らないのでこの際お話すると、釜房ダム上流の北川、古関地区付近である。 私以外にこの場所で同様な経験をしたと報告があったのはたった1件、1982年5月29日の夕方の報告のみである。 参考の為前後の記録を紹介しておくと、10日前に仙台で総雨量130mmの大雨が降っている。 8日前には、十和田で雪が降ったとのニュースがテレビで流れ、東北地方は全般的に冷え込んだ。

3日前には一転して仙合で26.2度まで気温が上がり昨日同様午後には、気温が30度を越し、当日の朝このポイントに入ったフライ・マンが25cmのニジマスをドライ・フライにヒットさせている。

そして翌日は日曜日であるにもかかわらず、このポイントでヒットさせたという報告は入ってこなかった。

(おわり)
(三浦剛資)

(「北の釣り」1986年2月号 No.44 P84-86掲載)

Copyright (c) 三浦剛資, 1986. All rights reserved.

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