英国やぶにらみ第33話 御用達風ボタンとリボン2010/04/22 23:18

何と云ってもロンドン名物をあげるとバッキンガム宮殿、ウィンザー城、そしてセントジェームス宮殿での衛兵交代の儀式である。 春から秋までは毎日、冬は隔日、午前11時30分から、女王陛下がいれば実行される。 ロンドンの観光協会名誉総裁?としてよい程で、女王陛下をはじめとして王室の人々の協力は、少なくとも20%、ポンド通貨下落の防止の役にたっているともいわれる。

凋落の途を続ける今日の英国にとって、米国をはじめとする観光客の落としてゆく歳入は大きな部分を示す。 女王陛下は出来る限り保有する財産を公開しており、また供用に付しておられる。 公園しかり、城内の部分もそうだ。 さらに一部の近衛兵についても観光者の為に作業をふりわけ、ロンドンを訪れる人々の楽しい思い出作りに配慮されている。

例えば、バッキンガム宮殿から1キロあまり離れて騎馬連隊の本部があり、交代式には1個師団が制服着用で騎馬によるパレードを行う。 彼らの着用する制服はリボンなどの装飾品一式で19ポンド(22kg)にもなる。 同時に騎馬連隊本都の門前に同じ服装で乗馬した2名の衛兵を1時間交代で職務につける。

これが観光客の為のロイヤルサービスで、客の中には馬にさわる者あり、リボンをひっぱる子供、衛兵と並んで記念写真をとる者ありで、衛兵にとっては戦以上の激務となる。 さらに数名の他の衛兵を庭先に配置して、旅の思い出作りのサービスとしている。

騎馬連隊は赤ぶさ付きの金属へルメット、黒色ジャケットに純自ズボン、金属裂防弾チョッキにホワイトたすき、サーベルに長靴の制服で、カッコよさでは衛兵の中ではダントッである。 平均22~25歳の隊員のほとんどは世襲でしめられており、一般の子息は入隊の可能性がないといわれるエリート集団である。 これに対して、熊の帽子に真っ赤ジャケットの衛兵は、歩兵師団から構成されている。

英国はご承知のとおり連邦なので、警護にあたる歩兵師団は、交代毎に派遺してくる師団が異なる。 基本の制服は同じであるが、現在王室を警護している連隊は、5方面からの派遺隊である。 しかし、よく制服をみると、前面の金ボタンの配列が微妙に異なり、出身地方が識別出来る。

まず、グレナディアーとよばれる近衛兵第一連隊で、専ら王室警護の為に組織された師団であり、フロントボタンの配列は8個を均等につけてある。 コールドストリーム師団は、イングランド隊で、ボタンは10個、ふたつづつを5段に配列してある。 スコットランドの衛兵は3個づつの3段で合計9個のボタン、北アイルラン師団は、4個2段で8個の金ボタン。 ウェールズ派遺隊の制服は、中間にすきをとった5個2段になっていて判りやすい。

衛兵交代式自体は、バッキンガム宮殿の表庭で挙行されるが、その前後には宮殿までの歩兵パレードがあり、軍楽隊が先導する。 イングランド、ウェールズそして北アイルランド軍は、離れていると吹奏楽で奏でられる曲名が判らないと判別しにくい。 彼らの演奏する曲目のなかには、必ず出身地の民謡、童謡が編曲されているからだ。

それにひきかえ、スコットランドの軍楽隊は絢爛豪華である。 数10人のバグパイパーを先頭に、全員が古式ゆかしいキルトを着用してのパレードで、スコットランド隊の先導を勤める。 日本人の多くが文部省唱歌として口吟んできたメロディーが一番よく演奏されるのもこの軍楽隊の時で、中にはテッキリ日本の唱歌とおもっていたものが、実はかの地の民謡であったことを知る機会でもある。

宮殿の衛兵は不動の姿勢で警護にあたると聞かされているが、彼らも人の子。 ある機会に長時間にわたり観察してみた。 不動に近い姿勢を保持しているのは、実は数分単位で、疲れてくると捧げ銃のスタイルで門前を歩行して、また元に戻ることを練り返して疲れをとる。 約1時間で次の衛兵と交代して休憩にはいる。

この状態は午前8時から午後9時までで、その前後と深夜は鉄砲担いで宮殿周辺をぶらぶらして、警官などとも立ち話しにふけっており、けっして24時間不動の姿勢ではないことが判ったときは妙にうれしかった。

あるパレードの際、警護にあたっていた衛兵が疲労からバッタリ倒れた。 交通整理にあたっている巡査数人の脇での事だ。 しかし、警察の連中は誰も助けず素知らぬ顔。 しばらくして同僚の衛兵がきずき、やっと救助された。 あとで聞いた話だが、警官と衛兵の間は所轄が異なり、軍隊に対して地方自沿体からは要請がない限り、援助をしてはいけないのだそうで、どうやら石頭はどこの国にもいることを知らされた。

国家非常事態宜言中以外、女王陸下が絶対宮殿から外出できない時間がある。 それは衛兵交代式の行なわれている間で、なぜならこの間は衛兵が女王を警護出来ないから。(荒井利治)

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