抜粋やぶにらみ続編 また香港アラカルト2010/04/24 07:36

後四ヶ月でホンコンカーブの別名で呼ばれる啓徳空港も閉鎖されランタオ島北部の埋め立て地の新香港国際空港が開港する。 既に新空港と香港島とを結ぶMTR(地下鉄新路線の空港線)はほぼ完成しスペイン製の流線形新車両が搬入されている。 現在の市内線とは異なり新デザインの車両が空港と香港島を高速鉄道で二十三分で結ばれるので、現在の啓徳空港に比べてアクセスは格段に改良される。 ランタオ島と九龍半島間の海峡は東京のレインボーブリッジに似た車と鉄道の二段架橋染が完成しており、既に日本と周様、観光名所になりつつある。 休憩所や売店なども完備して香港カップルのデートスポットとなっている。
現在の地下鉄もこの空港線にあわせて既に新機能が導入された。 まずはプリペイドカード、日本のJRなどが販売しているQカードの様なプリペイドではなくマイクロチップを組み込んだ『オクトプスカード』で、自動振り込み機で既に所有するカードに入金して利用する、クレジットカードからの振替も可能。 自動改札機の読み取り装置に近づけるだけで、利用料金を自動改札機が差し引き残高を記憶させるもので、日本ではまだ実用化していない。 この方式の採用にあたり香港交通局は従来の地下鉄だけではなく香港島、九龍半島すべてのバス、九龍半島北部の軽便鉄道もこの一枚のパスで利用可能にした。 また通常の地下鉄の自動販売機も釣銭が出る様に改善し、行き先駅の表示に触れるだけで料金が示される様になった。 香港の地下鉄はこの一年で約三十パーセントの運賃値上げがあり、市民はこれらの開発費を払わされている様だと嘆く。
唯一価格が据え置きなのが交通機関では香港島の二階式市電で一ドル六十セントで固定している。 設備は悪く遅い乗り物であるが、車体中の広告収入が値上げを阻止している。 高温多湿の香港ではこの電車の二階で風に吹かれてのひとときは、ゴージャスではないが誠に快適な気分を味わえる。 ただし電車が続いてくるので、後続の電車に乗る方が快適で寿司詰めから逃れられる。 ただしうっかり顔を窓から出したりすると二階建てのバスに鼻をこすられる危険有り。

長年香港に来ているが入国審査場でわずか二分で通過出来たのは今回が始めて。 改めてこの国への観光客が減少している現状に驚かされる。 なにしろ日本語が飛び交っていた場所なのにあまり気にならない程になってしまっている。 勿論荷物も早々に戻ってきてすんなりと今回は空港を後にした。 ところが町中にはいるとまるで爆撃を受けた様な工事現場だらけの風景が点在していて何事かと確かめると、古い建造物があちこちで解体されて、再開発花盛り。 中国側の投資家が香港の賃貸の高額を見込んでビルラッシュに拍車をかけた。 しかしこのところの経済不況で工事が中断していて工事途中で放置されているものも多く、これが爆撃後の様な風景を作り出している。 そして隣を見れば竹竿で組まれた足場をバックに四十階建てのビルが全面ガラス壁面でそそり立っているのが今日の香港である。 経済不況は深刻化していて、会社などの倒産が激増しており失業者があふれている。 ヤオハンの倒産では一度に数百人の店員が職を失ったが、金銭に目ざとい香港商法はこの失業者の増大を利用して自社の旧雇用者を解雇して低賃金で新たに社員を雇用するなど実に巧妙な賃金カットを実現している。 現集に若い女性などは勤務先を変えるごとに賞金が下がる昨今だと言う。

香港人がやたら持ち歩くのが携帯電話で数年前からある種のステータスシンボルになっている。 香港独特の電話料金制度の産物で、この国では通常電話は固定料金制で毎月の基本料金を払うだけで、度数料金は国際通話以外には存在しない。 したがって何度掛けても同料金、どこの店でもレストランでも、電話を勝手に使用しても意に介さない。 最近は公衆電話なども多く見られるがこれは観光客用で市民は相変わらす寸借電話ですませるのであまり公衆電話に人はいない。 所栓小さな地域なので携帯電話はどこでも通話が可能で海底トンネルを走行中の地下鉄でも、あのにぎやかな言語が地下鉄のノイズに交じって独特の雰囲気をかもしだすが、乗客は平然と競馬新聞に読み耽る。
最近の流行はこれに電子メールがプラスされこの普及もすさまじい。 小学校の中等科で香港の子供達は電脳と書くコンピューターの授業が始まる。 したがって十五才の子供が平然とインターネットに取り組み、ホームページを作り出す。 小生の知人の十六才になる少年は週末ともなると世界中にインターネットで交信したり、小生宅に電子メールを送って来たりする。 香港では通話料金は固定のために、プロバイダーまでの接続に追加料金が要らず、わずかな毎月のプロバイダー手数料を支払うだけで、世界中と交信可能。 こんな国は香港だけの特例といえる。
九龍半島の著名ホテルのぺニンシュラの裏に同系列のカオルーンホテルがある。 このホテルはビジネスホテルとして当初建造された関係で各客室にコンピューター端末とファックス端末が装備されている。 投宿すると個別のファックス番号が割り当てられ自分の部屋でファックスの送受信が出来るので、大変便利でそのうえコンピューターでチェックアウトや勘定書の確認が出来るのも特徴であるが、近年さらに電子メールが付加された。 コンピューターで送信文を作成し、即時にプロバイダーに送付出来る。 料金はホテル故に割高で五ドルの市内通話料が必要であるが、接続手数料など一切ない。 したがってファックスの料金の一、二割で米国でも、日本にでもメッセージが送達される。 ちなみにこのコンピューターで勘定書をチェックしたが市内通話一回分以外なにもチャージされていなかった。 到着電子メールはファックス端末のプリンターから自動印字されて出てくる。 電脳とは云い得て妙なる文字であるが、それ以上に香港の人々がこれらを駆使する脳に驚かされる。
こんな気持ちから香港の電脳の世界の裏窓を見たくなるのは自然の成り行きで、今回は穴場を訪れて見た。 電脳市場が集まる香港のアキハバラは旺角、深水捗、湾仔の三ヶ所である。 いずれの場所も観光ガイドや日本で売られている香港案内書にはまず載っていない。 これらの電脳市場では、欧米、日本で知られるブランド商品だけでなく、販売されている商品も千差万別、台湾と香港合作機種や中国産のIBMプログラムまでなんでも有りである。 そのうえ凄いと思うのは豊富な海賊版の氾濫である。 CD-ROMや音楽CDの他、最も多いのがVCDと呼ばれる映像ディスク、日本などではレーザーディスクが主流を占めているが、香港では家のサイズの影響からかコンパクトな機材で使用出来るビデオCDが全盛となっている。 映像解像度などはレーザーに比べると悪いが視聴には十分で尚且つコピーや海賊版が作りやすい。 海賊版も中途半端じやない。 日本のアダルトビデオを始め、安室から木村拓哉、ヤワラチャンのアニメなどが所狭しとばかりに店頭を飾る。 凄いのは日本で現在ロードショー公開中のハリソン・フォードの『エアフォースワン』が十二月の段階で既に販売されている。 これらの単価は香港ドルで四~五枚で百ドル、約千七百円である。 ジャケットタイトルは『変軍一號」スーパー字幕は広東語、ワイドスクリーン二枚組、その上海賊版行為、コピーや著作権侵害に対する警告までコピーして挿入してある念の入れ様で帰途の機内で楽しんでいたら日本人の乗務員が仰天、日本のアニメなどは全て日本語のままなので、字幕がある分だけ広東語の教材になる。
香港警察や公安などが時々手入れをするらしいが、店の数もおおく取り締まりはほぼ不可能でお手上げが現実、現行犯逮捕のために買い物客まで巻き込むので、手入れがあっても市民は一切協力しないし、安い娯楽を売ってくれる業者の味方でさえある。 これらのマーケットはいつも香港の若者達のたまり場で、見終わったVCDのバーターなど通路で繰り広げていて、ブランド指向で蓄膿症候群的会話しか出来ない日本の最近の女子高生などに比べると、素朴で青少年らしい親しみを感じさえした。

香港の現在の不況は香港人自らが作り出した要因も大きい。 一昔前は日本が買い手で香港などの発展途上国は多くの製品を低賃金で作り出し多大の輪出貢献をした。 多くの先行投資、工場などの拡大、雇用確保など香港の人々は努力を怠らなかった。 また、香港の高景気雇用拡大をはじめ所得倍増、公共物価の上昇をももたらした。 さらに産業に対しての多くのノウハウも得た。 ところがマンモス中国が工業化するにしたがって、香港の経営者は製造コストの削減と販売増を期待して、中国を利用する製造拠点の依存を模索し実行に移した。 さらに欧米や日本の企業までが香港を頭越しにして中国への投資を図り製造拠点を振り替えた。 その結果近年では香港における生産能力は大幅に低下し、永年にわたって培ってきた香港独自の製造概念、産業団地などは崩壊または消滅し、ただ中国で生産された製品の販売に依存する事になってきた。 永年に亙って培ってきたノウハウまでもが中国に移ってしまったからだ。 途上国にとって発展は武器であり、手中にした特権は返すことは無い。 香港商人はさらに目先を誤った、中国は香港を窓口にして将来にわたり貿易を行うことを信じ、夢見ていた。 ところが英国の香港中国返還に並行して中国からの直接貿易の拡大は予想以上に急激に増え、さらには中国系の商社が香港に開業して、香港商人ボイコットが歴然として来たのである。 中国経済人は既に香港なくしての貿易確保のノウハウを持ってしまっていた。 また中国では社会主義の中に資本主義を同化させる政策をとり、航空業界事業など今や数倍の規模になっており、空輸による貿易も多くの都市へ中国機が直接乗り入れており、香港経由は必須ではなくなっていることも無視出来ない。 多くのレイオフ、倒産など香港の今日を見ていると中国を利用しようとはじめた香港商人の策は見事に裏をかかれ、技術力、販売力の両方を中国に略取されてしまった感がある。 勿論世界に知られた香港商人のことだからこのままでは終わらないだろうが、さらなる中国による香港の変貌はまもなくやってくると思わねばならぬ。
英国の香港返還からまもなく六ヶ月、元の地元民、英国人は滞在査証の延長申請が必要になった。 いまや外国人である英国人は日本人などと同じ扱いになっており、特権は存在しない。 その上従来の雇い主が就業に関して身元保証の継続を躊躇するケースも多く、英国パスポートの人々は香港を離れる例が次第に多く見られる。 十余年にわたり香港に行くと立ち客っている英国風居酒屋パブのバーマンも英国人から香港人や豪州人に変わって来ている。 同じ青い目で元英国植民地であった香港と豪州だが、彼らの英語はまるで違う。 香港の英国人は俗に言うキングスイングリッシュであって、判りやすかったが、豪州人は先人がロンドンのコックニー訛りを持ち込んだためか、今ではロンドンでも少なくなった下町言棄のコックニーが巾をきかせていて理解するのに難儀する。

滞在中に香港では中国の国会に当たる全人代の役員の選挙が行われた中国の一員となった香港では当然であるが、全人代に議員を派遣し国益を反映する行政が要求される。 案の定当選したのは新華社香港支店長など全て中国本土系の息のかかった人々で、反体制派はひとりも当選しなかった。

中国大廈(中国銀行香港支店)の正面と裏口玄関には大きな祝賀聖夜と恭賀新年の節り付けが美しかった。 面白かったのは戸外の電節文字がすべてこの銀行のビルにむかって点灯していることで、通常は一般に見て貰うためにビルは背にするものなのにと考えこんでしまった。 なんとなく臣民がお上に向かって挨拶を送っている様で興味深かった。 香港通貨を発行している元英国系の香港上海銀行はモミの木一本が立っているだけで、電飾も出来ていなかった。 こんなことはいままでなかった現象である。
この香港上海銀行の前にプリンスビルがある。 有名な欧米ブランドが軒を競う場所で香港の中環(セントラル)の一等地である。 このビルの地下に昔から金融界や香港在住英国上流階級の人々が集うバーとレストラン『ベントレーズ』がある。 金曜日の午後五時頃はこのバーには、ダークスーツの紳士が帰宅の前の一杯に立ち寄り混雑をきわめたものであった。 ところが今回訊ねてみると客は一組だけ、それも女性を合めた四人組で嬌声をあげながらカードを繰り広げている。 一昔前なら紳士間から文句が出たものだ。 バーテンダーも何も云わず、小生の注文を受けながらポツリとハッピーアワーはありませんとつぶやく。 午後四時から七時頃までは以前はハッピーアワーといって飲み代が半額になった。 武士は食わねど的なジョンブルな風格を残しながらも、この客足では半額にするほどのゆとりは残っていないらしい。

昨年間もなく変わる香港をレポートしたが、予想した以上に変遷していく香港に驚くとともに一九九八年も気が許せない一年になりそうだ。 今掌のひらに香港の新しい一ドルコインがある。 新生香港のシンボルの花柄と一九九七の年号が刻印されたデザインで仕上がっている。 五十年は不変と言われた最初の年に既に変調が現れている。 クイーン・エリザベスも王冠もないこのコインに何時星のマークが追加されるのか気になる。 もういくつねるとが........再び起こるの

(平成十年)
(荒井利治)

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