フライフィッシング内緒話 第10回 密漁入門2010/04/24 08:05

昨年の9月に大手のコンピュータ関係専門の出版社から1冊の本が発売になった。 題名は「ネットワーク犯罪入門」。 内容はコンピュータを使用して、他人のデータを覗いたり盗んだりする手口の解説書である。 犯罪手口を詳細に紹介することで、逆にそれを防ぐための解説書にもなっている。

そこでこれを見習って、これから公開するのが名付けて「密漁入門」。

勿論密漁を奨めるのではない。 手口を公開することで、彼等密漁者の行動を目撃した時に、未然に防ぐかあるいは110番通報するための参考にするのが目的であるから、絶対に誤解しないでほしい。 密漁は間違い無く犯罪なのだから。


・毒流し

一般的に毒流しとか、毒もみとか呼ばれているが手口も使う毒物も様々である。 近代国家では禁止されている漁法であるが、開発途上国ではかなりよく行われている。

一見簡単そうであるが、一つ間違うと人命に関わることになる。 日本では勿論禁上されているが、時々行われている密漁である。 使用する毒物であるが、日本ではサンショの葉を木綿の袋に入れて、上流の水中で袋をもみ、下流で三角網を使って浮いた魚をすくい上げるのが、一番オーソドックスな方法である。

世界的に見ても植物性の毒物で一時的に魚をマヒさせ、手で掴み捕ったり、網ですくったりするのが一番多い。 そして小さいのは逃し、大きいのも卵を生ます為逃し、適当な大きさのを必要な数だけ捕るのが、この場合のルールであり南米の奥地やバプアニューギニアなどでは魚を絶やさないように、しっかり守られている。

さて我国では「密漁にルールがあるか」とばかりに渓流を目茶滅茶にしてくれる。 毒流しの言葉にだまされて毒薬(農薬)を使うから、大きいのも小さいめも根こそぎ捕ってしまう。 あげくのはてに、自分で流した農薬で中毒を起こし命を落すバカがいたり、毒の分量を間違えて支流1本全滅させてしまう輩がいるから畏れ入る。

もし目撃した時は、下流の人の生命に関わるので直ちに警察に通報すると同時に現場を見まわし、車などが止まっている時はナンバーを控えておく。


・電気

この密漁はバッテリーとイクニッション・コイルを必要とするので中進国以上の国でないと行なうことが出来ない。 方法はオートバイ用のバッテリーとイグニッション・コイルを使って数万ボルトの高庄を発生させ、魚を一時的にマヒさせ下流ですくう。

毒流しと違い影響する範囲が狭いが、フライ・フイッシングのポイントである瀬を目茶滅茶にしてしまう。 水は電気が流れ易い様に思えるが淡水は以外に電気抵抗が高いのでポイントに十分近づかないと効果が出ない。 だから、こいつらが歩きまわった後は、魚が怯えていてポイントに近づくことが出来ず釣りにくいことおびただしい。

この密漁者に出会ったら、手許のスイッチの取付け方法をよく見てほしい。 スイッチを押すと高圧電気が出るようになっているのは初犯。 前科数犯の凶悪犯は、必ず手がはなれた状態でスイッチが入り高圧電気が出るようになっている。 こうしておかないと、万一感電したとき手を握りしめてしまうので、スイッチが入りっぱなしになる。

体や、着ている物が水に濡れると感電するので、一番の弱みは雨と、川で転ぶことである。


・夜とぼし

本来この密漁は、魚が光に寄りつく習性を利用して、集まったところを網などで一網打尽にするのをいい、我々に関係するのは、正確には夜突きと言う。

梅雨が明けた頃から盛んになるのは、川の水が落着くからで、8月の旧盆の頃が一番のピークとなる。 カーバイト・ランプで川底を照らし、寝ている魚をヤスで突くのが、一般に広く行われている。 カジカに限って解禁している所もあるが、たいていは禁止されている。

この夜突きを、渓流でやるアホがいる。 カジカと同じ方法で、川底を水鏡(箱の一部に板ガラスを取付けパテ埋めした物)で覗きながら、ヤスでイワナを突いて行く。

当然、夜行う。 モーニング・ライズを狙おうと現場に着くとちょうど夜突きの終ったばかりのこいつらに出会ったり、あるいは川を釣り上って行くと、使い終ったカーバイトが川原に捨ててあったりして、がっかりさせられる時がある。 他の密漁と違って、やっている本人達に罪の意識が薄いので誠に困るが、これは立派な(?)密漁である。


・投網

これを密漁といったら怒られるが誤解しないで読んでほしい。 現在かなりの河川でこの漁法は許可されている。 ところが、全ての魚に許可されているわけては無い。 たいていの川ではアユ、又はハヤなど非常に限定した魚種で許可されている。 しかも、捕ってはいけない魚を明記しているのでは無く、捕ってもよい魚を明記している場合が多い。 この場合どこの川であっても、ヤマメやイワナを許可している所は無い。 ところがアユを捕るつもりが、間違ってヤマメが入ってしまったという場合もあるので、川によっては魚種でなく区間と時期を決めて許可している所もある。 したがって、間違いなく渓流となる川で投網を打つのは言い逃れることが出来ない完全な密漁である。

渓流で投網を打つのなら、狙う魚は当然ヤマメかイワナである。 ところがアユやハヤと違い単に瀬で魚を追い投網を打てば入るわけではないから何か方法をとらなければならなくなる。

そこで、投網用の「ヤナ」とか「ツケバ」とか呼ばれる物を造る。 本来のヤナとは似ても似つかない物だが、川の瀬の中に流れを塞き止めるよう、高さが僅かに水面から出るように石を並べる。 初めに要になる石を置き、次にその石に寄り掛る様に石を並べて浅いプールを造る。 数日して魚が溜ったころをみはからって、投網で一網打尽にする。 はなはだしいのは石の隙間から水が漏れないように、ビニールハウス用のビニールを被せているのもある。

もし渓流でこれらの「ヤナ」あるいは「ツケバ」を見つけた時は、当然壊すべきである。 造られてすぐかあるいは日が経っているかはフライを落して見れば、すぐにわかる。 投網を打つ前なら、かなりの魚が入っているので十分楽しませてもらえる。 戴く物は戴いてから壊せばよい。 これは密漁場所を見つけた者の役得である。 壊すのは大汗かいてやる必要はない。 要になる石を見つけて蹴飛ばしておけば、後は水の流れと水圧で自然に壊れる。

ところで、アユの解禁前に堂々と投網を打っているのを見掛けることがあるが、これは密漁ではなく組合が事前に魚の成育状況を調べたり、学術調査の為に行っているのである。

ところがなんの印も無く、近づいて本人に確かめて初めて判る場合が多い。 釣り人としては、彼等の仕事が理解出来るのだから「ご苦労様」の一言も掛けたいが、高飛車に組合員の鑑札を水戸黄門の印籠のごとく見せられると「コノヤロー」と思うのは人情である。 ノボリを上げてスピーカで告知してまでやれとはいわないが、せめて一目でわかるように大きく染め抜いたゼッケンでもつけさせたらどうか。 密漁防止にも役立つと思うのだが。(三浦剛資)

(「北の釣り」1986年1月号 No.43 P84-85掲載)

Copyright (c) 三浦剛資, 1986. All rights reserved.

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://tightlines.asablo.jp/blog/2010/04/24/5040326/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。