英国やぶにらみ第30話 女王陛下の……2010/04/22 22:48

王制をしく英国では、日本の宮内庁が設定している御用達と同様の制度があり、歴代のロイヤルファミリーが幅広く指定している。 まずエリザベス女王、エジンバラ公、女王陛下の母君、チャールズ皇太子がそれぞれ各分野で任命される。 昔は王家のファミリー全てが御用達の指定が出来たが、現在では正式に業者ご用指定はこの4名で、女王の姉妹とか子供は指名していない。 ダイアナ妃も同様で、チャールズ皇太子の指定業者を中心に利用されていて、個別指定は出来ない。

呼称ながら、英国では全ての公官庁は女王陛下の何がしと云う。 つまり陛下の政府とか陛下の省庁で、ロンドンに着いて最初にパスポートを確認するのは女王陛下の法務省所轄で、荷物の検査は女王陛下の税関である。

日本にある英国大使館からの手紙などにも、名称は陛下の大使館と印刷されている。 実在していると感違いしそうな程有名な007ことジェームス・ボンドも、英文の著書では、全て陛下の007と記されている。

さて、英国の御用達では、納入する種別により業者が指定される。 日本では宮内庁御用達の看板はあまり効力が無くなったのか、近年、あまり積極的に業者は宜伝していないし、また、宮内庁でも広告などに使用する事はいやがる様だ。 この点英国では、御用達の指定は名誉であると共に、商業宜伝などにフルに活用してよい事になっているので、当該御用達の商品には、王室ファミリー個々の紋章を印刷したり刻印出来、全ての人々が同じ商品を購入してよい。 ただし日本と違うところは、宮内庁のように不特定ではなく、あくまで個人であり、陛下などが逝去されると同時にこの権利は失効してしまう。 また、皇太子が王様になれば、その段階で皇太子御用達は終了し、新たに王からの指定を受けることになる。

英国では、女王陛下が、いうなれば家付きなので、エジンバラ公に比べると数倍の業者を御用達として指定している。 カーペットから家具、台所用品、風呂場に便所、庭園具などの住については全て主人である女王陛下の指定範囲となり、トイレットペーパーまでが女王陛下の紋章を印刷出来る対象である。

さらにカーペットの選択、御用達銀行、時計の修理、クリーニング、写真家、ペンキ屋にはじまる宮殿の保守・管理に関するものも、そのほとんどが女王陸下から指定を受ける。 ほかには2社の煙突掃除会社も勿論含まれる。 女王陛下の煙突掃除といえばハクがつくのかしら?。

衣については、各自が異なる業者を指定するケースも多く、男性と女性の違いもあり、実に多様化していて面白い。 床屋に始まり、パジャマまで業者があるエジンバラ公などの男性用、香水から宝石、妊婦服、そして下着類までの女王用、と限りない程である。

乗馬を始めとして、スポーツ一家の英王室では、釣り具、銃砲、テニスなどの運動用具は、歴代の王室ファミリーからの指定。 中には乗馬服を300年余にわたり納めているロンドンのテーラーも含まれ、この店の中は紋章だらけ。

食の分野となると、御用達の肉屋を筆頭に、紅茶、コーヒー、ビスケット、野菜類、チーズなどの食糧、タバコに酒類、そして忘れてならないものにマッチと爪楊枝の業者といった案配。 その指定範囲のあまりの広さと、人間とはかくも多面と関係があるのかと驚ろかされる。

一国のトップとして君臨する為に多くの外交や交流があり、その為の各種の接待が付随する。 宮殿で催される晩餐会の盛り花を御用達としている者もいるし、その場で演奏される音楽の為のピアノの調律師も歴代指定されている。 勿論、贈り物取り揃え業者も存在している。

変り種として、第一次世界大戦後から戦没兵士の墓にポピーの造花を棒げる風習が生れたが、この為に王室では造花製造業者を御用達にし、今日に至っている。 また、クリスマス用品については、通常の指定業者のほかにクリスマス専用の用品業者が用意されている。

以前にも書いたが、国家予算に計上されるミルクと粥材料の納入専門業者がいるが、これはヴィクトリア女王が設定したもので、その頃から質素をむねとした女王が、贅沢をいましめる意味から、特に朝食用の材料に限り、御用達業者を分離している為とも云われる。 この為にデイリーフードであるソーセージ、マーマレード、パン、バター、蜂蜜、そして鶏卵は、それぞれ御用達業者が別で、この指定制度はエリザベス時代も踏襲されている。

毎年ロンドンにおいて、女王主催の園遊会が開かれ、各界の人々が招待される。 その中に御用達業者も交代で招かれ、女王から丁重なお礼がある。 さらに御用達の業者だけの組織があり、時に応じてパーティーなどを催して意見交換や懇親を図っている。 御用達は約99%英国の業者であるが、唯ひとつ、あまり英国国民が好きでない国のフランスからの輸入品がある。 ブランデーとワインがそれで、この2種のラベルに英国王室のマークが堂々と表示されるのがジョンブル魂としてはなんとも腹立たしい事なのである。 しかし、世界の上流階級や国賓を迎えてのパーティーに自国製のワインともいかず、女王陸下のブランデーはその地位が変らない。(荒井利治)

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