英国やぶにらみ第35話 混乱言語英国やぶにらみ第三世代2010/04/22 23:21

英国の人々は普段、ヨーロッパ大陸の言語の異る人との交流が頻繁であったり、片言であっても、けっして礼を欠く様なそぶりは見せないし、かみくだく様にゆっくり話をあわせてくれるなどの配慮を示す。

ところが、相手がアメリカン言語を多用すると、極端に不快感を示したり、後になってあれはカーボーイよ、と耳打ちしたりする。 そこには誇り高き英語を、勝手に作り換えた異端者の言語にたいしての所作を許さない一面が現存する。

基本的にヨーロッパ人は、米国人を見下す素質を心のどこかに持っていて、何かにつけてはアメリカを小馬鹿にしたり、話題の種にする。 我々日本人が、一般に米語にふれる様になったのは、そのほとんどが戦後の進駐軍にはじまるもので、それ以前はなかったといえる。

明治政府は開国とともに、日本の政府高官などを英国に派遺して、以来第二次世界大戦までは、英国からの影響を受けた英語が輪入されたのである。 ところが進駐軍にはじまる戦後の英語は、じつは米語であって、けっして正当英語ではなかったので、以後40年、2ケ国を機軸とする言語が、混乱使用するはめとなった。 自分では気がついていないのであるが、英国人の耳には、米語と英語をミックスして使用している現在の日本人をどう見ているのか、気にかかる昨今である。

いったい、英語と米話はどこが違うのか。 ロンドンの著名書店に出向き、資料でもと思ったら、ピカデリー通りの土産店で、すごい小冊子をみつけた。 ポケットにはいる小さなもので、英語/スコットランド語、英語/ウェールズ語、そして英語/米語の辞書である。

英国々内でも言語が異なる国であるので当然なのであろうが、日本で東京語/九州語、関西語/東北語の辞典なんてものを金田一先生も作っていないので、早連、英語/米語の辞書を買ってみた。 宿に戻って数頁をみてゆくうちに、英国人が瞬時にしてアメリカ人と見抜く事をあらためて納得するとともに、英話と米語ではこんなにも単語や使いかたが違うのかと唖然とした。

さらに、わが日本人が教え、使い、信じている言葉が、なんともめちゃくちゃに米、英語をミックスしており、平然と行使している現状は、後年禍根を残すのではと懸念する程である。

言葉の乱れは世界中で問題にされている。 さらに、外来単語を転用、自国語にしてしまう傾向が近年さかんでフランスのミッテランが国内の看板、広告などに、英語の使用を禁じる法律を施行したが、効果の方はいまいちである。 日本ではさらに悪のりして、新聞、雑誌などが外来語を短縮してしまう。 マスコミとかテレビとかもそうで、軽率人間は、逆に英国でも通用すると思ってしまうので、余計始末に困る。

アメリカで使われる単語で、アパートメント(貸部屋)、バッゲージ(小荷物)、キャンデーショップ(菓子屋)、フレンチフライ(ポテトプライ)、ガス(ガソリン)、パッケージ(小包)、メール(郵便)、リザーべーション(予約)、ムービーシアター(映画館)、ワン・ウェイ・ティケット(片道切符)などは、英国では、フラット、ラゲージ、スイートショップかコンフェクショナー、チップス、ペトロ、パーセル、ポスト、ブック、シネマ、シングルティケットという具合になる。

英国で通常使用されている単話から例をとると、バンクノート(紙幣)、シティーセンター(繁華街)、ダイナモ(自動車用の発電器)、フーバー(電気掃除器)、テレフォーンキオスク(電話ボックス)、ニート(ウィスキーなどの飲み方)、スパナー(工具)、スイスロール(ケーキ)、バン(自動車の1種類)などがあるが、これが大西洋のかなたではビル、ダウンタウン、ジェネレーター、バキュームクリーナー、テレフォンブース、ストレイト、モンキーレンチ、ジェリーロール、デリバリートラックとなるのである。

これだけの単語の中でも判る様に、英語または米語ではまったく違うものが存在し、日本では単に英話として両方の単語を混乱使用している事がわかる。 面白いのは郵便ポストという日本語で、英国では郵便の意をポストと云うから、直訳するとポストポストという事になる。 米語と英語という範囲のなかでさえ敵視するのだから、もし日本の英語化が現状のまま進んでいくと、ミックス、短縮した日本英語は、混乱言語第三世代を創造する危険を感じる。

英国のヒースローの入国審査で、旅券をだして許可を受けるのだが、滞在日数と目的の質問がある。 日本からの団体旅行客を、近年大手の旅行会社では、現地の日本人ガイドを到着ゲートまで出迎えさせる様にしている。 日本からの出発前にレクチャーしても17時間の疲れが、暗記した英語の答えを忘れさすので、到着後、しかるべき模範回答をインスタント講義で入国審査前にやっている。

目的はホリディー(観光休暇)、滞在はワンウイーク(1週間)と暗記させる。 10日であっても、面倒なのでほとんどワンウィークで統一。 これがハワイのホノルルの入国審査の時は、目的はバケーション、つまりホリディーが英語で、バケーションは米語である。(荒井利治)

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