英国やぶにらみ第36話 ネバー オン サンデー2010/04/22 23:22

英国の国教として独自のキリスト教があり、マザーグースなどの幼児誌などでも、日曜日には教会に出かけて祈りを捧げると思っている人が日本ではいまでも多い。 ところが、実際に英国にいってみて判るのであるが、特別な日とかクリスマスをのぞいてはまず、教会に出かける人などほとんどいない。 充分に朝寝を楽しみサンヨーかトシバ(東芝)製のコーヒーメーカーで、ベッドサイドでコーヒーを沸かして、ベッドの中でゆっくりと味わう。 核家族化している家庭では老若を問わずカップル単位の生活なので、日曜日の朝食はまずカットしてしまう。

普段は11時半から開く昼のパブは、日曜日に限って11時、と開店が早目。 ホテルのレストランも同様で、朝食と昼食を兼ねたブランチを提供する。 ロンドンなどの有名なホテルでも日曜日となると、家族中でブランチをとりにくる客の為に、泊り客の数の数倍の量を用意する。 ベッドでコーヒーを飲んだだけなので客の食欲も旺盛で、ビュッフェスタイルの料理が見るみるうちになくなってゆく。

日本やホンコンなど日曜日に商店が開いていて、ショッピングが出来るのならいいのだが、英国の主婦にとって日曜日の朝・昼の台所仕事は、ネバー・オン・サンデーと云う訳だ。 日曜営業労働法案を国会に提出したら、サッチャーさんが先頭に立って廃案にしてしまった国柄ゆえに、台所雑務がない日曜日のブランチの満腹を消化するのには、当然乍ら代案が必要となる。

観光客でもっている都市ロンドンとも云われるのに、日曜日は博物館や美術館は、そのほとんどが午後だけ開館するので不思議に思われるが、市民にすれば、月曜日から土曜日まで観光客はいつでも来られるのであるから、日曜日ぐらいは自分達の生活にあわせてオープンして当然と考えている。

つまり、館側の人も市民も、ブランチのあとに楽しんだり、管理したりできる時間帯にセットして腹ごなしをしている訳で、観光客はネバー・オン・サンデーといったところ。

公園の催し物も同様に午後からの開催で、午前中は老人とハトが支配する。 国鉄やロンドンの地下鉄なども日曜日の午前は運転回数が激減して、10分以上も次の電車を待つのが普通。

ロンドンの状況に驚いていては英国にはとてもついてゆけない。 イングランドでは規制がないが、スコットランドでは、なんと日曜日には釣りが法律で禁止されている。 休息日には殺生したりせずにゆっくり休めというのか、ゆとりある日曜日の釣りはご法度である。

英国第二のスポーツと云われる釣りではあるが、その中でもサーモンフィッシングはフライ釣りが主流である。 英国の代表的なサーモンリバー「テイ川」での典型的なスケジュールを紹介すると、日曜日に目的地の釣り宿に投宿して、主人のアレンジしてくれたギリー(助手)に紹介される。 釣具を持ってこなければ手配を頼み、翌朝の出発時間や最近の釣り場での釣果などを聞いてその日はやすむ。 まだ夏なのに木枯しの様な風の音が気になって、羊を数えたくなる。

月曜日から金曜日までは、ただひたすらに釣りに明け暮れる。 一日に何度となく変化するスコットランドの天候もめげず、立ちこみ、ボート、岸辺からのキャストなどサーモンへの挑戦である。 ギリーは最良の釣りが楽しめる様に、フライのセットからバックラッシュの糸解きまで注意を怠らない。 その上、ランチバスケットを開ける前に、ジントニックを主人好みにサービス出来ないと一人前として評価されない厳しさだ。

金曜日の午後、釣れたサーモンを好みの方法に宿に注文する。 スモークにして持帰る者、ハクセイに仕上げる者、宿屋に売却してしまう者などで、売った代金はギリーヘのチップの足しにもする。 季節の再会を約してギリーに1杯のビターを振舞い、自分でもジントニックのおかわりをする頃には疲れがドットでる。

土曜日の昼前、遅い朝会をすませて宿をあとにする。 トランクにはスモークされたサーモンが土産。 日曜日は釣りが出来ないスコットランドとのお別れとなる。 ひつじに注意の交通標識を見ながら、いくつかの山越えを了えるとエジンバラが近い。 さらにドライブで南下すること2時間、スコットランドとイングランドの国境を示す看板に出会い、ツイード川を渡りきると丘陵地帯のイングランドとなる。

英国の暗黒の歴史は毒殺の歴史といわれる。 これは多くの河川をもちながら、飲み水に不足した為で、領主は自分の領地に貯水池を作り、水の安全を知る手段として魚を放ち水を管理した。 魚が浮きあがる事態となれば、水に毒をもられた証拠となった。

山のないイングランドの夕方ともなると、今でも貯水他にはエサ釣りの人々でにぎあう。 イングランドでは日曜にも釣りが出来るので、黄昏時、しばし釣り糸をたれてと思っても、釣具屋が休みでエサも買えず、結局、フリのビジターは簡単には釣りも楽しめない。 やはりここでもネバー・オン・サンデーである。(荒井利治)

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