抜粋やぶにらみ続編 ユーロは果たして欧州貨幣になり得るのか2010/04/24 07:39

一九九九年一月一日から欧州のEU加盟国のうち十一ヵ国が幻の通貨であるユーロを承認し、加盟手続きを行った。 加盟した国々はベルギー、ドイツ、スペイン、フランス、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、オーストリア、ポルトガルそしてフィンランドである。 そして当初の加盟予定国であった英国、ギリシャ、デンマーク、スエーデン、ノルウェーなどは加盟を見送っている。 さらに欧州通貨の中で最も安定し、強い存在であるスイスは加盟の意志も示していない。 この様に通貨が一本化出来ない理由にはいろいろな原因があるが、その中でも一番の問題は強い通貨と弱い通貨があること、農業主体国と酪農主体国の違いも大きな要因と云われている。 一九九九年の当初から二○○一年の十二月末日までは、各国それぞれの通貨が主体に使用されるが二○○二年からはユーロ紙幣と各国通貨が併用となり、同年の七月からはユーロ圏すべてでは同一通貨であるユーロに統一される。

当該国通貨とユーロとの換算レートは一九九八年十二月三十一日のレートを基準として固定処置が行われた。 これは一九九九年一月一日から二○○二年までの通貨相場を設定する指針として固定し、最終的に基軸となる円対ユーロ、ドル対ユーロの動きを表記させる意味を持って定めたもので、二○○二年までの間には大巾な変動などが生じた場合には変更も検討される事になろう。 はたして一九九九年三月にはユーゴに対してNATOは戦時体制をとる処置に出て、不本意のままに参戦を余儀なくされたEU加盟国も出て、通貨の価値変動が大巾になってきている。 今回のユーロ通貨はフランスとドイツが主導権を握っているといって過言ではない。 ドイツは特に顕著でいずれはユーロ通貨管理国をめざしている。 ところが今回のNATO参戦で第二次世界大戦敗北後、初めての国外への軍事行動に踏み切るなど、同国通貨に不安要因を作る結果となり、今後の推移が懸念されている。

ユーロと呼ぶ通貨単位は確定したが、まだ紙幣もコインも存在しない、二○○二年の七月の通貨流通開始までに百三十憶枚の紙幣、五百六十憶枚のコインを必要とするといわれる。 勿論この数字は現在の加盟国十一ヵ国の見積使用量であり、加盟が増えればさらに造幣額が増える。 通貨の製造は既にデザインも決まりフル稼働で製造が開始されている。 ドイツ造幣局では現在二十四時間態勢でコインの生産が行われており、スペインの造幣局では紙幣が作られている。 複数国が使用する国際通貨でもあるユーロはもし偽造通貨が流通した場合、未曾有の被害が見込まれる。 そのためには種々の特殊細工を施したデザインは勿論造幣技術が優れているドイツ・スペインなどが選ばれ生産を開始したのであるが、問題はそのコスト、ドイツに比べれば初年度ではスペインでは約二分の一で出来あがる。 ドイツのユーゴ戦参戦に起因する通貨不安はユーロ通貨の造幣にも影響を与え兼ねないのである。 欧州では特にアフリカや中東の小国のために通貨の造幣を引き受ける特殊会社が存在し、そのひとつであるドイツ・ミュンヘンの業者はユーロ通貨の製造を引き受けていまやゴールドラッシュの様な勢いである。 政府の造幣局より生産コストも安いので、相当量のユーロ通貨の造幣を引き受けている様子である。
その結果、アフリカの一部の国で本年後半には交換通貨が不足して、流通にも外貨を代用せざるをえない小国が今年から来年にかけて生まれるとの事。 それほどこのユーロの誕生は多くの通貨が必要となり、また旧各国の紙幣の処分もいずれ大問題となる。 偽造を防止する手段として紙幣には通常許可されないインクなども使用されており、大量の紙幣の焼却などにあたっては、化学的な薬害も生じる危険も予想される。
一九九九年に始まった新通貨であるユーロは、当面、日米欧の一部銀行ではトラベラーチェックを発行する事になったが、それも二、三のユニットチェックのみで百と五十ユーロが主流、そのうえ外国為替取扱店舗でも販売している銀行の本支店はまだわずかで、日本では事前予約を必要とする銀行もある。 では一九九九年、とりあえずなにから始めるのかというと、各国銀行、商店などでは本年からすべての価格表示について自国通貨価格とユーロ概算額の併記表示をすることになった。 いわゆる欧州の単価の目安となる指針として利用される。

例えばフランス製造のミネラルウォーターの価格をとれば、フランスでは仏通貨、ドイツでは独通貨で表示されるが同時にユーロでも表記されるので、その価格に差額があれば、ある意味で国別の物価実勢指数を知る事が出来る。 つまり、数点の物件について価格を比較することで、どちらの国の物価指数が低いか判別の基準の参考に出来よう。
日本では前述通り一九九九年当初から数社の銀行でトラベラーチェックの発行に踏み切ったが、引き受ける側の欧州の店舗などでは、一、二割の割合でしか引き受けをしてくれない。 勿論これも空港の免税店や非課税売店などが主な取扱店であり、また引き受けてくれても、百ユーロ、五十ユーロの二種類程度でそれ以外の単位のチェックは拒絶されることが多いといわれる。 それに釣銭などは全て使用した空港の国の通貨や、手持ちがあれば日本円で精算してくれる。 滞在する国でなく単に乗り継ぎ空港などでユーロを使い釣銭をその国の通貨で受け取っても目的国の通貨ではないので使用出来るのは結局ユニセフヘの寄付しか使い道がなかったりするので注意が必要。 二年後には自国通貨になるというのに欧州では未だユーロは将来の自国通貨として認知すらされていない事が多いのに驚くのは日本人的考え方で欧州人は気にもかけないのが普通。

当面、ユーロでは紙幣を最初に導入を図りコインを流通の段階にまで至るには二○○二年以後だという。 平均十七パーセント程度を付加する欧州の消費税の実態を考えても、十分なコインが確保されない限り、混乱以外の何もでもない。 その上欧州型消費税は打ち内税方式、コイン不足ではまず考えるのは四捨五入の方式での便乗値上げ。 その上日本人が欧米を旅していつも経験するのが店員の釣銭間違えの多さ、多くの日本人が経験しているショッピングの時の悪夢の様な経験、それも日本では小学生でもこんな間違えをしないと思われる様な事を平然とドジるので、それが複数通貨での勘定となれば、まずほとんど被害に出くわすと思われるし釣銭パニックが予想出来る。
例外は二○年前のソビエト・モスクワ・シェレメーチボ第二空港の免税店にいたオバサン、当時の東欧やキューバまで通常西側で使わない通貨まで熟知していて、まったく判らない言葉を乱発しながら呉れる釣銭の正確だった事、あんなオバサンをヨーロッパに輪出し、ユーロ担当に採用すれば今のソビエトはもっと裕福になるのにと、変な事を思い出す。
それは兎に角現実に二○○二年の新通貨使用開始時まではユーロ通貨はサブ通貨であり国別、銀行別で両替や交換の手数料がさまざまで国によっては相当額の手数料を請求されるおそれがある。 レートは固定されたが手数料は依然全面通貨変更までは各国の設定がベース。 本来ユーロ通貨の誕生の最大の理由は各国間の交流簡素化と通貨交換手数料の削滅が最大の目的であったが、これから約一年半にわたる経過期間は今まで以上の手数料を支払わされる結果となると見てよい。 なぜならこれはユーロ通貨自体がないのだからそれぞれの国の通貨がそれを代用する事にもなるが、空港などでは自国通貨が不足した場合その国以外の通貨による支払いが生じても文句も言えず、釣銭を受け取らざるを得ない事も考えておかねばならぬ。 つまり二○○二年七月には欧州が一つの通貨になるのではなく、三分の二程度に通貨数が減る程度の理解力の方が混乱しないで済む。
たとえば英国、スイスの両基軸通貨国ではユーロには加盟しないので、すべてのユーロ通貨は依然としてこれらの国では交換が必要となる、この二国は通貨の両替手数料が昔から高い事で有名で米国ドルなどに比べるとコミッションが大幅である。 つまりユーロは彼らからすればフランス、ドイツ二大農業国のための通貨の感じが拭えないのである。 また二○○二年末までは、商店などではユーロを引き受ける義務はなく受け取り拒絶も出来る。 これ実は大変に重要な事で未だにクレジットカード文化に疎い、現金主義の日本人や英国の上流社会の連中にとっては、時によりパリのカフェでは夕食も出来なくなってしまう。 つまりカフェテラスではフラン通貨だけでも商売には影響を受けないし、ユーロで支払われても、チップのあんばいもわからないのではギャルソンは相手にしてくれないから。
クレジットカード支払いではユーロでも、使用国の通貨でもどちらでも支払いが出来るが、ほとんどのカードでは普通その国の通貨単位で記載するだろう。 日本での支払いの換算は当該国のその日の決済レートで計算される。 直接ユーロを日本円に換算するのではなく、フランスであればその国の銀行やクレジットカード会社は一度ユーロを自国通貨に換算し、さらに日本円への換算が行われるのですべて二回の換算で割高、ユーロでの支払いは損となる。
現在日本人は海外に口座を持つことが出来る様になっており、自由に欧州の銀行に口座を設置出来るが二○○二年までは当該国通貨または米国ドルがほとんど。 例えばオランダで口座を開設した場合、現在はオランダギルダーでの口座開設となるが、二○○二年七月一日からは、ユーロ加盟国に限りこれが自動的にユーロ通貨口座に切り替わる。 ただし約定をしておけば旧通貨単位での口座は存続可能らしいが明白ではない。 しかし英国で口座を開設しても、ユーロには未加盟なので英国ポンドとしての口座が二○○二年以降も存続する事になりユーロ通貨には移行しない。
ではなぜ英国やスイスそして北欧などが参加しないのか、これについては国間によって大きな違いがある。 まずスイスであるが世界通貨の小鬼といわれる同国の金銭感覚、銀行などの金融機関の態勢、国勢の現状、立法及び行政の国民全ての参政権などの違いなど、いちがいに説明が出来ない程複雑な考え方をみせるのがスイスで、未だに金銭的には欧州内でありながら欧州に属さないのがスイス理念といえる。 ヒットラーの財産、パーレビーの資産、最近ではスハルトの蓄財など、スイス通貨の特異性はいまでも変わっていない。 世界の各国の国税庁が一番難儀する国でもある。 勿論観光王国であるスイスは自国にプラスとなる欧州連合鉄道(ユーレイル)などには率先して加盟しているが通貨となると別の意味からの信用度が抜群であるだけでなく、最終的に米国ドルが拒否されてもスイス通貨は引き受ける姿勢を見せる世界の国々が多い現状をみても、他国通貨と協調を図る必要などは皆無で価値レベルも平均して他国を圧倒している。 このためだけではなくとも、スイスにとって、代替通貨や寄り合い通貨などは兌換にも程遠く論外にほかならない。 つぎに英国は気位などが依然として友好や協調に優先するお国柄で島国根性は日本とよい勝負で、昔からコンチネント(大陸諸国)とは一線を画す事が大義名分として存在する。 英国病と呼ばれた一九七○年代の弱体王国は今や鳴りをひそめ、サッチャー首相、そしてその後の彼女の院政によって長期政権となったメジャー首相の政治手腕により大英帝国時代を彷彿とするまでに経済の復興を図った英国は、いまや自国通貨を欧州通貨と置き換えたい程である。
第二次大戦後、EECにはじまった欧州のボーダーレスの流れにも依然として消極的で、旅券の検査などもいまだに独自の物差しを使用する程であり、いまやトンネルで結ばれる様になった英仏海峡であるが、英国国鉄は依然として欧州の鉄道パスには加盟せず独自のブリットパスを使用し出入国管理も独自の基準で行っているEUの中の異端児。
北欧の未参加についてはおそらく各国自身が小国であり、王制の国が多い。 また人口もそれほど多くはなく通貨の統一化により自国通貨が事実上消滅する様な印象を持つ統一通貨への移行は王族のシルエットが残る紙幣を愛して来た国民感情が許さないなにかを秘めている様な気がする。 共和国と立憲君主国の違いが見えかくれする。 最近戦禍にまみえたユーゴやセビリア、コソボ、そして東欧を挟んでの欧州の最南端ギリシャは本来のEU地区とは離別しており、また国民の交流なども西欧とは全く異なる。 生活文化、価値観、物価指数などをとってもユーロへの併合には問題がありそうで、この度の決定は当然と思われる。

ユーロは英語のEの筆記体をデザインしたもので表記される。 最新の情報ではやっと昨今欧州の主要空港の両替所でも、ゴタゴタがなくトラベラーチェックの交換が出来る様になったが、実際に交換する時は、当分若干のいやな思いをする事になりそう。 なにしろ現金でも米二○ドル、英二○ポンド以上の紙幣となると、窓口の店員はスカシや特殊印刷リボンを必ず透かして本物や否やチェックする。 これに以外と時間がかかる。 新ユーロ通貨のトラベラーズチェックのデザインは当然だが周知していないので、おそらく数回にわたり交換時にはチェックの憂き目にあおう。 間違っても立ち寄り空港などでユーロ通貨を英国でフランに替えたり、パリでポンドに替えない様にしないと、時間がかかるだけではなく、ユーロから欲しい通貨への換金までに二~三度に重複して手数料を請求される事は覚悟しておいた方がいい。 ユーロと目的国の通貨レートはリンクされていても、途中の第三国通貨が立ち入ればすべて『ご破算にねがいましては........』となるからだ。

ユーロの本拠地はベルギーのブルッセルに置かれた。 ECに始まった欧州統合のホームベースであるベルギーはベネルックス三国の中心だけではなくいわば欧州の臍、国自体には特別なものはないがなんとなく本拠地に出来る無難な場所である。 おそらく他のドイツやフランスに本拠地を置けば、この通貨同盟は長続きする筈がないと、欧州主要国の首脳全員が思っていると想像出来る。 つまり強国がなにかをすれば必ず、コジレルのが過去数百年の欧州であって、根底のどこかに単一通貨の成功など信じていない面すら見え隠れするのが現状でもある。 異文化こそ文化などという文化相がいる欧州故か。 でもドイツはいまでも欧州通貨枢機国をめざしているらしい。 欧州当初の模索は米国、英国、日本通貨などに並ぶ基軸通貨を保有する事であり、日米も欧州統合通貨の誕生は協調だけではなく、世界への通貨安定供給にも利便があり喜ばしい事として歓迎した。 しかし現在の様に英国、スイスなどが入らない通貨では、期待した基軸通貨には若干不本意なものである事は間違いなく、ユーロ通貨の流通の速度によっては、同盟国の間や自体からも不満や拒絶反応が出てきそうな気がしてならない。
今回の統一通貨第一弾では、片肺飛行的なスタートとなった。 紙幣やコイン一枚ないままでのスタートライン、当初の予定参加国の減少、依然として存在し脅威となっている各国通貨間のギャップ、発行紙幣、基金の兌換能力への懸念など問題は山積とも言える。
通貨とはかかわりはないが、欧州ではEU加盟国間などの免税が事実上なくなった。 この動きは既に実施されているが、欧州内往来では欧州居住者には免税が適用されなくなった。 日本人などの欧州外の住民に限り免税の恩恵を受けられる。 問題は英国で買った商品をフランス経由で持ち帰る場合、英国税関では東京までの通し切符所持者以外は免税の証明をしないケースが起きる。 パリのフランス税関では東京行きの乗客の免税品は証明はするが、払い戻し窓口は英国製品の証明は受け付けてくれない。 証明を受けても英国に書類を送り返す手続きをしないと税金は戻らない。 近年はクレジットカードに払い戻す方法と空港で現金で返却してくれるケースが多いが、前述の例ではパリで現金では受け取れない。 でもガッカリする事はない。 欧米でのタックスフリーの返却窓口が何と今や成田空港に開設され日本円で戻ってくる。 ダンヒルの買い物の税金が成田で戻る様になったがこれはユーロとはまったく無関係の恩恵。

(平成十年)
(荒井利治)

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